千葉地方裁判所 昭和60年(行ウ)6号 判決 1987年12月18日
亡木坂忠藏訴訟承継人原告
齊木道子
右訴訟代理人弁護士
阿部三郎
同
松本昌道
被告
船橋税務署長
右指定代理人
岩田好二
同
中島和美
同
竹澤雅二郎
同
戸田俊幸
同
星野弘
同
鳥飼俊夫
同
鈴木高一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が亡木坂忠藏に対し、昭和五八年一一月一八日付船資特第一二〇号によつてなした亡木坂忠藏の昭和五五年分の所得税にかかる更正請求に対する更正をすべき理由がない旨の処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 本件更正をすべき理由がない旨の処分(以下「本件処分」という。)の経緯について
(一) 原告の養父亡木坂忠藏(以下「木坂」という。)は、原告の肩書地に住所を有し、不動産所得、譲渡所得を有するものであるところ、要旨左記内容の昭和五五年分所得税申告を昭和五六年三月一四日、当時の管轄税務署であつた市川税務署へ提出した。
(1) 不動産所得 金七九万五一三九円
(2) 分離長期譲渡所得
金二億二八二一万一〇五〇円
合計 金二億二九〇〇万六一八九円
(3) 所得控除金額
金三〇五万八八三〇円
(4) 申告納税額
金九八五九万五〇〇〇円
(二) 右分離長期譲渡所得の内容は、木坂所有の別紙1の三筆の土地地積合計4479.36平方メートル(以下「本件土地」という。)を昭和五五年二月二九日加平不動産株式会社(以下「加平不動産」という。)に譲渡代金二億四三九〇万円をもつて譲渡したこと(以下「本件譲渡」という。)に基づき生じたものであるが、右申告の際は本件譲渡につき、租税特別措置法(昭和五六年法律第一三号による改正前のもの、以下「措置法」という。)三一条の二に定める優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(以下「優良住宅地の特例」という。)を適用しないで申告した。
(三) その後本件土地について加平不動産及び本件土地を加平不動産から更に譲渡を受けた株式会社船橋ヘルスセンター(昭和五九年九月一日に社名変更し現在は株式会社ららぽーととなつたが、以下「船橋ヘルスセンター」と略称する。)において優良住宅地の特例に定める要件を充足するに至つたので、木坂は昭和五六年七月九日新たに設置され管轄署となつた船橋税務署に対し、右(一)の(4)の申告納税額を金七一二二万九七〇〇円(減少額金二七三六万五三〇〇円)とすべきことを求めて(譲渡所得金額には変更がない。)更正請求書を提出した。
(四) 右更正請求に対し船橋税務署長は昭和五八年一一月一八日付け船資特第一二〇号をもつて「更正をすべき理由がない」旨の決定処分をなしたので、木坂は同五九年一月一七日同署長に対し右原処分に対する異議申立をなしたところ、同署長は同年四月一七日付け船資特第一号をもつて「異議申立てを棄却する」旨の処分をした。
(五) そこで木坂は国税不服審判所長に対し昭和五九年五月一五日付けで原処分の全部取消を求めて審査請求をなしたところ、同所長は、昭和六〇年三月七日東裁(所)五九第一三五号をもつて「審査請求を棄却する」旨の裁決をなし、右裁決書謄本は昭和六〇年三月一五日東審(裁)第四四号をもつて同月一八日頃木坂に送達された。
2 本件処分の違法事由
本件処分は、後述のように、木坂から加平不動産への本件不動産の譲渡が優良住宅地の特例を受けるものであり、国税通則法二三条により更正の請求をなしうる場合であるのに、これを理由なしとしたものであつて、違法である。
3 木坂は、昭和六一年七月五日死亡し、養女である原告が唯一の相続人として同人の地位を承継した。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の事実はすべて認める(但し、(三)の更正請求書は市川税務署に提出されている。)。
請求原因2については、争い、同3については認める。
三 被告の主張
被告は本件処分の適法性について、以下のとおり主張する。
1 各所得金額及び所得税額
(一) 木坂の昭和五五年分の各所得金額及び所得税額は別紙2に記載のとおりであり、木坂が法定申告期限内である昭和五六年三月一四日に被告に提出した確定申告書記載の金額と同額である。
(二) 別紙2記載の金額のうち、分離課税の長期譲渡所得金額二億二八二一万一〇五〇円の内容は、次表のとおりである。
(単位 円)
番号
項 目
金 額
1
収入金額
二四三、九〇〇、〇〇〇
2
取得費
一二、一九五、〇〇〇
3
譲渡費用
二、四九三、九五〇
4
特別控除額
一、〇〇〇、〇〇〇
5
分離課税の長期譲渡所得金額
二二八、二一一、〇五〇
右表の収入金額二億四三九〇万円は、木坂が本件土地を昭和五五年二日二九日加平不動産に譲渡したことに伴う木坂の譲渡収入金額である。
2 木坂が昭和五六年七月九日付けで被告に対してなした更正の請求は以下のように更正の請求ができる場合に該当しないので、更正をすべき理由がないとした本件処分は適法である。
(一) 本件更正請求は、国税通則法(以下「通則法」という。)二三条一項所定の更正の請求ができる場合に該当しない。更正の請求は、納税申告書の提出により確定している納付すべき税額が過大であつても、単にそれだけではこれをすることができず、納付すべき税額が納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより過大であるときにはじめてこれをなし得るものである。したがつて、所得計算の特例、免税等の措置で一定事項の申告等を適用条件としているものについてその申告等がなかつたため、納付すべき税額がその申告等があつた場合に比して多くなつている場合は、更正の請求ができる場合に該当しないと解すべきである。けだし、そのような場合は、当該確定申告にかかる税額等が単に例外的な特例等の利益を受けていないというだけであつて、その計算が法律の規定に従つていなかつたり計算に誤りがあつたりしたわけではないからである。そもそも更正の請求を制限したのは、このように所得計算の特例等について必要とされる申告等がなかつた場合に、申告等があつた場合に比して多くなつている税額を更正の請求という形式で減額することを排除する趣旨のものと解すべきである。
(二) 本件更正の請求は、通則法二三条二項三号、同法施行令六条一項一号によるものであるということもできない。すなわち、通則法施行令六条一項一号が官公署の許可等の取消しを更正の請求の要件とした趣旨は、行為の効力に係る官公署の許可又はその他の処分に基づいて課税の基礎となる事実が構成され、更にその事実に基づいて確定申告がなされた場合において、その後右官公署の許可その他の処分が取消され、その取消後の事実に基づいて計算すると税額が申告額より過大となる場合には、右課税の基礎となる事実そのものが存在しなくなり、結果として納付すべき税額が過大であつたということになるから、通則法二三条二項所定の期間において更正の請求を認めようというものである。したがつて、通則法二三条二項の規定は、所得計算の特例、免除等の措置で一定事項の申告等がなかつた場合に、その申告等の追完を認めようとする趣旨でないことは明らかである。(なお、土地の真の譲受人であると原告が主張する船橋ヘルスセンターが開発許可を受けたのは昭和五六年九月三日であり、これより以前の昭和五六年七月九日になした本件更正の請求には、形式的にも通則法二三条二項の規定の適用はない。)。
(三) 土地の譲渡が措置法三一条の二第二項四号の優良住宅地等の譲渡に該当するためには、(1)都市計画法二九条又は同法附則四項の許可(開発許可)を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地造成を行う個人又は法人に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該一団の宅地の用に供されるものであること、(2)右一団の宅地について、その面積が一〇〇〇平方メートル以上であり、かつその宅地の造成が当該開発許可の内容に適合して行われると認められるものであること、そして(3)これらの点について措置法施行規則一三条の三第一項四号に規定する開発許可申請書の写し等を確定申告書に添付することにより証明がされたものであることがそれぞれ必要である。ところが、本件土地の譲受人である加平不動産は、本件土地の譲受けにつき右開発許可を受けていないし、更に、木坂が昭和五六年三月一四日付けで提出した確定申告書には、本件土地の譲渡が「優良住宅地等のための譲渡」に該当することについて必要な証明書である開発許可申請書の写し等が添付されておらず、優良住宅地の特例を受ける旨の記載もなされていない。したがつて、木坂から加平不動産への本件土地の譲渡は措置法三一条の二第二項の要件を満たさないため、優良土地の特例に該当しない。
(四) 譲渡した土地がその確定申告期限までに優良住宅地等の譲渡に該当しない場合であつても、措置法三一条の二第三項において「確定優良住宅地等予定地のための譲渡」に該当する場合には優良住宅地の特例を受ける旨規定しているが、この場合においても措置法施行規則一三条の三第三項の規定では、土地等の買取りをする者から交付を受けた「優良住宅地等のための譲渡」に該当する予定地である旨の書類を確定申告書に添付することにより証明がされることが必要とされている。ところが、本件では木坂は、昭和五六年三月一四日付けの確定申告書の提出にあたり、右書類を添付しなかつたのであるから、右措置法三一条の二第三項の要件をも満たさず、特例を受ける場合に該当しない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1はすべて認める。
2 同2(一)及び(二)は争う。
3 同2(三)のうち、本件土地の形式的な譲受人である加平不動産が本件土地の譲受けにつき開発許可を受けていないこと、及び木坂が昭和五六年三月一四日付けで提出した確定申告書に所定の開発許可申請書の写し等が添付されておらず、優良住宅地の特例を受ける旨の記載もなされていないことは認め、その余は争う。
4 同2(四)のうち、木坂が昭和五六年三月一四日付けの確定申告書の提出にあたり、措置法施行規則一三条の三第三項所定の書面を添付しなかつたことは認め、その余は争う。
五 原告の反論
1 木坂がなした本件更正の請求は、通則法二三条二項三号、同法施行令六条一項一号により後発的事由に基づくものとして適切になされたものである。すなわち、通則法施行令六条一項一号によると「申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実のうちに含まれていた行為の効力に係る官公署の許可その他の処分が取り消されたこと」の事由に存する場合は、やむを得ない理由があるとして一定の期間内の更正の請求を認めている。右規定については、課税標準額又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する行為について官公署の許可を受けることを当事者が当初から予定しており、そして後日官公署の許可がなされたことにより一定の要件を満たし、その結果納税申告等にかかる税額等が過大となつた場合においては、それが法定の申告期限後ではあつてもその官公署の許可(本件では開発許可)があつた場合を通則法施行令六条一項一号の「官公署の許可が取り消されたこと」と同等とみて、更正の請求をなし得ると類推解釈ないし拡張解釈すべきである。
2 たしかに所得計算の特例、免税等の措置で一定事項の申告等を適用条件としているものについてその申告等がなかつたため、納付すべき税額がその申告等があつた場合に比して多くなつている場合には更正請求ができる場合に該当しないといわれている。
ところで措置法の立法趣旨は、所得税等の租税を軽減、免除することによつて特定の政策的目的を達成することを目的とするものであり、本件に関する同法三二条の二の優良住宅地の特例も国民の住宅用地の供給促進の見地から土地政策上、都市計画区域内における優良な住宅地の供給に寄与する土地譲渡に税制上有利な扱をするのがその趣旨であると解される
そして優良住宅地の特例についての法三二条の二は、譲渡物件そのもの或は譲渡の相手方等につき詳細に規定している外、譲受人が当該土地について開発許可を受けることが必要とされており、この許可については時間的に相当長期間を要することが予測されることから同条三項においてはいわゆる予定地譲渡の特則を規定し、優良住宅地譲渡の特例の適用を開発許可を得られないことを解除条件として認めている。いわば法定の要件が満たされるかどうか不確定であるにかかわらず特例の適用を認めておき(勿論一応の必要書類の提出の必要はあるが)、後日許可のあつた事実の証明をさせ、若しこれら証明が得られなければ特例の適用なきものとして修正申告提出の義務をおうことになつているのである。そうだとすればあらかじめ特例の適用がない旨の申告を一応出しておき、後日その要件が備わつた時点で更正請求を認めても実質的には何らの差異を生じないはずである。そして措置法の多くの軽減に関する規定は、納税者の申告書に記載するとか何らかの必要書類を添付することが要件となつてはいるが、それ程困難な手続を必要とするものではない(例えば価格変動準備金等は所定申告書に単に記載するのみで足りる。)。これに対し本件優良住宅地の特例に関しては単に納税者自らの手で収集し得る資料だけでは足りず第三者の行為及びその証明が必要であり、かつそれには相当長期間の時間の経過が必然的に予測されており、他の特例に比べて極めて異質のものである。
右のような本条の特質を考慮すれば実質的に措置法の定める要件を満たし、かつ納税者がその特例の適用を受けることを意図していることが認められるならばその適用を受けられるよう法解釈することが立法趣旨にかなうものである。
3 被告は、本件土地の譲受人である加平不動産が本件土地の譲受けにつき、都市計画法上の開発許可を受けていないと主張するが、加平不動産は形式的な譲受人にすぎず、実質的には船橋ヘルスセンターが真の譲受人であり、右船橋ヘルスセンターは、昭和五六年九月三日付けで前記開発許可を受けているから、措置法三一条の二第二項四号の要件に欠けるものではない。
4 また、被告は、木坂が昭和五六年三月一四日付けで提出した確定申告書には法令に定める書類等を添付しなかつたと主張するが、本件更正請求においてこれらを添付したから右要件を充足している、といいうる。
六 原告の反論に対する認否
すべて争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因一の事実は、(三)のうち更正請求書が提出された税務署の点を除きすべて当事者間に争いがない(右更正請求書の提出先については、<証拠>によれば市川税務署であることが認められる。)。
二本件における争点は、木坂が昭和五六年七月九日付けで市川税務署に対してなした本件更正請求がその要件を満たすものであるか、である。以下、検討する。
1 通則法二三条一項の更正の請求について
通則法二三条一項によれば、同項一号から三号までの場合には、納税申告書にかかる国税の法定申告期限から一年以内に限り、更正の請求をすることができる旨定めているが、その趣旨とするところは、納税者が自らの申告により確定させた税額が過大であることを法定申告期限後に気付いた場合に、申告者にこれを是正する機会を与えてその権利救済に資するにある。申告納税方式における納税義務者は、申告行為によつて具体的な租税債務を負担するに至るのであるが、納税者が申告をしたのち、その申告内容に変更を加える必要の生ずる場合があることは否定できないのであり、このような場合にはその修正を認めるべきである。しかしあらゆる場合に自由にこれを認めることは申告の前述のような性格に照らして適当といえないのみならず、納税義務の具体的内容を不安定ならしめ、行政を混乱に陥れる弊害もあるので、これに一定の制限を加え、一定の期間内に限り特定の手続によつてのみ是正しうるものとしたのである。この見地からすると、一定事項の申告等を条件に所得額、税額の減免をすべきものとされているものについてその申告等をしなかつた者が、後日その特例の適用を求めるために更正の請求をすることは許されないと解すべきである。けだし、右一定事項の申告等を付さないでなした納税の申告も法律の規定に従つていなかつたり、計算に誤りがあつたりしたわけではなく、実体的に不当であるということはできないからである。
ところで、措置法は、都市地域における住環境として望ましい優良な住宅地等の供給に寄与する土地等の譲渡に限つてその税負担の軽減を図るという政策的な特例を設けている(同法三一条の二)。右特例を受けるには、確定申告書に当該土地の譲渡が優良住宅地等のための譲渡に該当することについて必要な証明書である措置法施行規則一三条の三第一項四号に規定する開発許可申請書の写し等を添付し、右確定申告書に優良住宅地の特例の適用を受ける旨の記載をなすことを要することとされている(措置法三一条の二第二項四号)。従つて、前述したところによると、確定申告に際し右優良住宅地の特例を受ける旨の申告等をなさなかつた場合には、後にその特例を適用し所得税額が減額されるべきであるとして、通則法二三条一項による更正の請求はなし得ないということとなる。これを本件についてみるに、木坂が昭和五六年三月一四日、昭和五五年度分の所得税の確定申告をなすにあたり、前記特例の適用を申告しなかつたことは当事者間に争いがなく、本件更正の請求はその後に右特例の適用を受けるべきであることを理由としているものであるから、右更正請求は通則法二三条一項による更正請求ができる場合に該当せず、その理由がないというべきである。
また、措置法三一条の二第三項は譲渡した土地がその確定申告期限までに優良住宅地等の譲渡に該当しない場合であつても確定優良住宅地等予定地のための譲渡に該当する場合には、優良住宅地の特例が受けられる旨規定しているが、右場合においても土地等の買取りをする者から交付を受けた「優良住宅地等のための譲渡」に該当する予定地である旨の所定の書類を確定申告書に添付し(措置法施行規則一三条の三第三項)、同特例を適用して申告しなければならないのであるから、結局この場合においても右特例の適用のある旨の申告をしなかつたために後日に右特例を適用して所得税額の減額を求める更正の請求ができないことは、措置法三一条の二第二項の場合と同様である。そして本件において、木坂が申告時に特例を適用して申告しなかつたことは前述のとおりだから、通則法二三条一項による更正請求ができる場合に該当しないことも同様である。
2 通則法二三条二項の更正の請求について
原告は、本件更正の請求が、通則法二三条二項三号、同法施行令六条一項一号により行つているものであるところ、本件の場合の開発許可のように官公署の許可があつた場合も、同法施行令六条一項一号の「官公署の許可が取り消されたこと」と同等とみて、更正の請求をなし得ると類推解釈ないしは拡張解釈すべきである旨主張している。
通則法二三条二項は、国税の法定申告期限から一年を経過した後においても同法施行令六条が定める特定の事由が発生したことにより、申告に係る税額等が過大となりあるいは純損失等の金額が過少となつた場合等において、例外的に当該事由が生じた日の翌日から二月以内に限り更正の請求をすることができる旨規定している。この規定は申告時には了知し得なかつた事態その他やむを得ない事由が生じ、当初の課税が実体的に不当(但し、もとより違法ということではない。)となり、遡つて税額の減額等をなすべきこととなつた場合に、納税者から更正を請求し得ることとして納税者の権利救済の途を更に拡充したものである。そこで原告が主張するように都市計画法上の都道府県知事による開発行為の許可があつたことが、右後発事由に該当するかを検討するに、まず通則法施行令六条一項一号は「官公署の許可その他の処分が取り消されたこと」と定めており、「官公署の許可」があつた場合を文理上含めていないことは明らかである。そして同号が右官公署の許可等の取消しを通則法二三条二項三号のやむを得ない事由とした趣旨は、行為の効力に係る官公署の許可等の処分に基づいて課税の基礎となる事実が構成され、更にその事実に基づいて確定申告がなされた場合において、その後右官公署の許可等の処分が取消され、その取消後の事実に基づいて計算すると税額が申告額より過大となる場合には、右課税の基礎となる事実そのものが存在しなくなつて、結果として納付すべき税額が過大であつたということになり、前記のように当初の課税が実体的に不当となり遡つて税額の減額等をなすべきこととなるから、通則法二三条二項各号所定の期間において更正の請求を認めようというものである。ところが、前述のとおり優良住宅地の特例により所得税額の減額をなし得るということは、前記政策目的上、納税者を優遇するにとどまり、特例の適用をしないで申告したからといつてその申告に基づく課税が実体的に不当になるものではないのであり、右の場合にその申告等の追完を認めるため、通則法二三条二項を類推解釈ないし拡張解釈する余地はないというべきである。またこのように解したからといつて、申告時に未だ譲受人に対する開発許可が得られておらず、優良住宅地の特例が受けられるかどうか不確定な場合も、前述のように確定優良住宅地等予定地のための譲渡として特例を適用して申告する方法が認められているのであるから、決して納税者に酷となることもない。
原告は、特例が受けられるか否か不確定な場合に、あらかじめ特例の適用がない旨の申告を一応出しておき、後日要件が備わつた時点で更正請求を認めても措置法三一条の二第三項及び第六項の予定地譲渡の場合と実質的には何らの差異を生じないと主張している。
しかし右のような解釈は措置法三一条の二第三項及び第六項の明文規定に反するのみならず、納税義務の具体的内容を不安定ならしめ、行政を混乱に陥れるおそれもあるのであつて到底採用することはできない。
3 措置法三一条の二の要件について
優良住宅地の特例を受けるためには、申告時に開発許可が存在する場合は措置法施行規則一三条の三第一項四号に規定する開発許可申請書の写し等を、申告時に開発許可が存在しない場合は措置法施行規則一三条の三第三項に定める土地等の買取りをする者から交付を受けた「優良住宅地等のための譲渡」に該当する予定地であることを証明する所定の書類を、それぞれ確定申告書に添付し、同特例を受ける旨示さねばならないが、昭和五六年三月一四日付けで木坂が提出した確定申告書には、右いずれの書類も添付されていないことは当事者間に争いがなく右要件を満たしていないことは明らかである。
これに対して原告は本件更正請求にあたつて右書類を添付したから要件を充足していると主張するが、措置法施行規則一三条の三第一項及び同規則一三条の三第三項にはいずれも「確定申告書に添付すること」と明示しているのであつて、右主張は理由がない。
原告は、優良住宅地の特例が国民の住宅用地の供給促進という土地政策に基づくものであることに加え、措置法の多くの税額軽減に関する規定がそれほど困難な手続を必要とするものではないのに対し、本件の特例に関しては第三者の行為及び証明が必要であり、それには相当長期間の時間の経過が必然的に予測され、他の特例に比べて極めて異質であることから実質的に措置法の定める要件が満たされており、かつ納税者がその特例の適用を受けることを意図していることが認められるならば、その特例の適用を受けられるよう法解釈することが立法趣旨にかなうと主張する。
しかし、措置法は種々の特例を設け、納税者に特例の適用を受けて申告するか否かを委ねているが、他方、特例を受ける場合には、申告に際してその旨を明示し、かつその証明のため所定の書類を添付することを要求し、もつて課税手続の明確、安定をはかつているのである。この理は措置法三一条の二の特例においても当然にいえることであり、所定の手続を履践していない場合に原告の主張のごとき解釈はとり得ないものである。
三以上によれば、原告のその余の主張を判断するまでもなく、本件更正請求は、通則法二三条の要件からしてもまた、措置法三一条の二の要件からしても認められないのであるから、右更正請求に対してその更正すべき理由がないとした被告の本件処分には何らの違法もない。よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官荒井眞治 裁判官手島徹 裁判官澤野芳夫)
別紙1
「譲渡資産の明細」
(一) 所在 千葉県船橋市上山町三丁目
地番 六〇五番一
地目 宅地
地積 4188.42平方メートルのうち、3769.36平方メートル
(二) 所在 右同所
地番 六〇六番一
地目 山林
地積 四三九平方メートル
(三) 所在 右同所
地番 六〇六番二
地目 山林
地積 二七一平方メートル
別紙2
(単位・円)
区 分
番号
金 額
所得金額
不動産所得
①
795,139
計(総所得)
②
795,139
分離課税の長期譲渡所得
③
228,211,050
所得から差し引かれる金額
医療費控除
④
2,000,000
社会保険料控除
⑤
113,830
損害保険料控除
⑥
15,000
扶養控除
⑦
640,000
基礎控除
⑧
290,000
所得控除額の計
⑨
3,058,830
課税所得金額
総所得
⑩
0
課税長期譲渡所得
⑪
225,947,000
算出税額
⑩に対する税額
⑫
0
⑪に対する税額
⑬
98,595,000
合計所得税額(⑫+⑬)
⑭
98,595,000
申告所得税額
⑮
98,595,000
納付すべき税額
⑯
98,595,000